2016年の参院選が終わって、もう2週間経ってしまった。
前回(投票日の二日前)はネット選挙が始まって3年、ネガティブキャンペーンが嫌な形で目立ち始めたということを書いた。例として長野選挙区を挙げたが、結果はネガキャンを盛んに仕掛けていた方の若林健太氏が大差(約7万4千票差)で敗れた。
2016参院選 見えてきたネット選挙のメリット・デメリット(前編:ネガキャンは誰にとってマイナスか)
別に若林氏本人が対抗馬の杉尾秀哉氏に対してネガキャンを仕掛けていたわけではなく、目立っていたのは地元の衆議院議員(自民党)だったのだが、結果として他の接戦区とは比較にならないほどの大差になったのは、やはりネガキャンで減らした票が多かったと言えるのではないだろうか。若林氏はこれから自民党の中核となって活躍することが期待される政治家だっただけに、犬死させてしまった陣営の責任は重い。
ネット選挙の効果が出たもの
さて、ネット選挙の効果というと、実は現在行われている東京都知事選挙に興味深い事例があるのだが、ここでは参院選に特化していくつか挙げてみたい。
マスコミが相変わらずの報道を続けている中、やはり候補者を詳しく理解するためにはネットの情報が必要だ。ネット情報は玉石混交だと言っても、「この選挙区の立候補者情報を知りたい」と思った時にすぐにアクセスできるのは、やはりネットだ。そして参院選で明らかになった注目すべき点は次のようなものだった。
- 長時間のビデオが減ってきた
- スマホを意識したウェブサイト(ランディングページ形式)が増えてきた
- 拡散しても広がらないケースが見えた
この中で、今回はビデオに関して記しておきたい。
候補者ビデオは短くセンス良く
候補者ビデオのPV(プロモーションビデオ)化は、実は数年前から行われてはいたが、4月に行われた衆議院北海道5区補選で池田真紀候補のビデオが明らかに今までと一線を画していたため、今回、そのビデオ制作を行ったSEALDs関係者に問い合わせや依頼がかなり行ったらしい。
さすがに依頼全部を受けるわけには行かなかったために、数人の候補者をまとめたり、映像制作を専門にしている地元業者に依頼が行ったケースもあった。私もPV制作はできるので、自分が関わっていた候補者のPVは依頼があれば作った。今回全候補者のPVを見てみると、確実にレベルは上がっているものの、旧態依然としたものもある。しかし、確実に今後は地方選挙にも波及していくと感じられた。
本格的なPV制作は、まず素材集めに時間がかかる。それから編集にも時間がかかるので、単に一本の街頭演説を撮るよりもはるかに多くの工数が必要とされ、コストがかさむ。したがって、すぐに地方選挙でも広く取り入れられるとは思えないが、撮影機器の低価格化、編集アプリの低コスト化や進化によって、2019年の統一地方選のころには、プロ並みのPVがあたりまえのように地方の議会選挙でも見られるようになるはずだ。
今回、私は全候補者(選挙区)のビデオを閲覧した。
全部といっても、公式サイトのトップページから簡単にアクセスでき、YouTubeでも確認できるもののみ。
そして、以下の点を評価の基準とし、それぞれの候補者の代表作と思えるものに最高5点から最低1まで採点してみた。
- 1分〜3分程度にまとめられているか
- 無駄なカットがないか
- 演説だけではなく、候補者の「素」の姿が見えるか
- 新規性があるか
- BGMがある場合は、効果的に使われているか
以下は私の独断である。
候補者本人の主張は一切関係なく、単にプロモーションビデオとしての評価を行った。自分のことを棚に上げているのは言うまでもない。
最高は5点だが、その中でも特に優れた2作品に5+を付けた。
あらかじめ断っておくが、今回は選挙区の候補者ビデオについてであり、比例区に関しては別の機会を設けたいと考えている。
特に優れいてる作品
くどいが、以下は候補者の主義主張は一切関係ない。単に映像作品として上記の観点で自分勝手に採点したものの中で、特に完成度が高いと思ったものである。
三宅洋平~ 自分らしくあれる社会
評:コンパクトにまとめられ、アニメーションを効果的に使用し、映像もBGMも非常によく練られていて編集レベルも高い。YouTubeの字幕機能を使ったりチャンネルリンクの機能もしっかり使っている。
福山哲郎の決意:未来に向けて持続可能な社会へ
評:三宅洋平氏のビデオと同じく、無駄が無くコンパクトにまとめられ、非常に高い編集レベルでアニメーションも効果的に使用されている。スタジオで撮ったような映像だが、演出色は極力抑えられている。
https://www.youtube.com/watch?v=1xmdp3PY1Ec
(埋め込み無効の設定となってているためリンクのみ)
レベルの高い候補者PV13本のうちの3本
次に、最高点の5点をつけた13作品の中から3作品を挙げておく。
まずは
桜井充PR動画「立ちあがろう、夢あきらめないで」
評:主張もはっきりしており、音声もクリア。細かな技も使っていて、見ていて飽きない。
わたなべ結最後のメッセージ
評:本人へのインタビューを挟みながら街頭演説での主張も混ぜて、イメージカットを加え、ミニドキュメンタリー風に仕上げている。一本で本人主張と人となりを知らせるには最適なビデオ。
小野田きみ
評:野党系ばかりだと偏っていると批判されそうなので、与党からも一本。若干演出がかっているが、本人がナレーションを担当する形式で、これ以上やると演出臭くなるギリギリのところで仕上げてある。候補者の純粋さがよく伝わってくる。
この他にも5点を付けたビデオが10本あり、それぞれプロが作ったようなレベルの作品となっている。
すべてに共通することとして、数秒のカットをつなげて、BGMも考えて入れられている。
優れたビデオは、本人の「語り」が入っていて、人となりがわかるようになっている。やはり、肩の力を抜いた姿は、人となりを出しやすいのだろう。
ちょっと気になったビデオ
中には、撮影も編集もかなり凝って行われているのだが、気合が入りすぎて空回りしそうな映像もあった。
公明党なので特定支持者向けとしては良いのかもしれないが、BGMはT-REXかと思えるような選曲で、候補者の雰囲気とのギャップが違和感を感じてしまう。この候補者の他のビデオもかなり凝った作りで、手が込んでいることは良く分かる。選挙カーの上からの映像があったり、演説の声をハンドマイクから拾っていたりして、かなり撮影を重視して作られていることを伺わせる。
もう一つ、これは自民党制作によるもので、接戦となっていて自民党の重点選挙区に指定されているところで、安倍さんが応援に入ったときの映像を入れて、どの候補者も同じような構成で作られている。
最後に一つ紹介しておくと、これは延々と選挙カーを後ろから撮ったもので、ウインドノイズ対策はできていないものの、音はクリアに聞こえて、映像のブレも少なく、町並みもわかるので、意外と見続けてしまう「古くて新しい」と言えるビデオ。
幸福実現党は、候補者によってはかなりレベルの高いビデオもあって、制作業者の立場としては少し複雑な気持ちにもなる。
候補者PVはどのように進んでいくのだろうか
映像は、あまり手の込んだCM風のものが増えてくると、逆に興ざめしてしまうだろう。見る方も目が肥えてくるので、無駄なカットが入っていたり、映像のブレや音声の聞き難さが候補者自身への評価にも影響するかもしれない。
そうなるとアイデア勝負となるが、より候補者の魅力を引き出し、有権者の興味を引くものがスタンダードになっていくだろう。
現時点で確実に言えるのは、街頭演説はそれ自体が「聴かせるもの」でないと見てもらえないということだ。自分が10分以上同じアングルで延々と演説映像を見ていたいかどうか、考えてみればすぐにわかる。
細かな話になるが、演説の場合は音声が割れやすいので、録音時のリミッターや編集での補正でなんとか聴きやすくさせる必要があり、映像は長時間のものであれば三脚は必須になる。
また、ドローンは人混みでは撮影できないので、DJI OSMOのようなカメラ付きスタビライザー+長い一脚スタンドを使った「擬似空撮」が取り入れられるだろう。さらに、RICOH THETAのような360°映像(プライバシーの問題があるが)や、VR技術も入ってくると予想される。
最後に、いろいろ他人様の一生懸命制作したビデオをあーだこーだ偉そうに批評したので、恥ずかしながら自分が作ったものを掲載しておく。「偉そうに言っているわりには大したことねーな」と思う人もいるでしょう。自分でも、これだけ批評してきたあとにご覧いただくのはかなり恥ずかしいのだが、これからもっと上達していきたいので、あえてさらけ出してみる。
ちなみに、オープニングの「Run for the future」の「R」が小さくなっているのは、元データは他の文字サイズと同じだったのだが、FinalCutProから直接YouTubeにアップするときになぜか小さくなってしまった、と言い訳しておきます。