「ザ・選挙」休止に伴い、以前掲載した記事をここに移しておきます。
2006/07/12掲載
5月30日、自民党選挙制度調査会にて「インターネットを利用した選挙運動に関する最終報告案」が提出された。そして、6月13日には民主党が「インターネット選挙運動解禁法案」を衆議院に提出した。「報告案」と「法案」という違いはあれ、それぞれの立場や考え方の違いが良く現れている。自民党案は、自党内の反対意見に配慮し、誹謗中傷やなりすまし対策が考えられている。QRコードやパソコン画面の映写など、細かな事象を例として挙げているのも特徴的だ。それに対し、民主党案は「法案」なので、実際の公選法をどのように変えるのか、といった内容になっており、細かな事象にはあまり触れていないが、より現実的な法改正に即した内容となっている。
インターネットを用いた選挙運動の現状に関しては「(1)公選法に記載されていない現状とは」で述べた。原則として、選挙期間中にインターネットを選挙運動に使用することはできない。したがって、各党の案は「できること」と「できないこと」をはっきりさせることに最大の意義がある。
ポイントを見ていこう。
まずは立候補者について――。自民党案も民主党案も選挙期間中のホームページ更新を可能としている。ただし、ホームページには連絡用の氏名(民主党案のみ)とメールアドレスを記載しなければならない。これに関しては、「メールアドレス」に限定してしまうと、迷惑メールの呼び込み窓口になってしまう恐れもあるので、「メールフォーム」も可能にすることを望みたい。
投票日の更新に関しては意見が分かれる。自民党案は「更新してはいけない」、民主党案は「頒布可能」。微妙な言い回しだが、通常は投票日に最もアクセス数が上がるため、これを禁止するかどうかは、わずかながら結果に影響するかもしれない。投票日を過ぎたら、選挙に関する記述は削除しなければならない。これに関しては義務とする自民党案に対し、民主党は努力目標としている。
自民党も民主党も、選挙管理委員会によるホームページの「告知」を勧めているが、民主党は国政選挙と都道府県知事選挙に限って、選管による選挙用サイト制作を「義務」としている。自民党案では公営サイトの類のものは「行わない」としている。
選挙後の「挨拶」は、両党とも可能としている(自民党案はウェブのみ)。
気になる有権者側について見てみよう――。基本的には「解禁」ではあるが、実際には解禁というよりも「できないことがはっきりした」といった印象が強い。まず、現時点で禁止されている「人気投票」に類するものは、両党とも引き続き禁止している。そしてサイト管理者のメールアドレス記述は両党とも義務としている。
自民党案が、メールを使った選挙運動を禁止しているのは立候補者側と同様だが、ホームページに関しては、両党ともそれほど大きな差は無い。ただし、「政治活動」と「選挙活動」の違いはわかりにくいので、「解禁」になったからといって告示・公示日前に「私は****さんを応援します。来るべき**市長選挙では****さんに一票をお願いします!」などと思いっきり選挙活動を行う人も出てくるかもしれない。そのための「メールアドレス記載」であり、このあたりは実際に運用しながらケース・バイ・ケースで対応していくしかないだろう。
過去の経緯を見ていくと、2001年ごろには民主党が熱心に「インターネットを使った選挙運動の解禁」を主張していた。しかし、自民党は「インターネットを解禁したら、民主党に有利になってしまう」と党内に多くの反対意見があり、公選法改正の動きは出ることもなく消え去ってしまった。
ところが、2003年ごろからブログのブームが始まり、多くの現職議員や候補者がブログを使って自らホームページの更新を行うようになってきたことや、昨年(2006年)の総選挙において、インターネットを積極的に利用した(ように見せた)自民党へのネット上での支持が民主党を上回り、「前向きにネットを利用すれば、自党に不利にはならないんだ」という意識の変化を背景に、自民党内でワーキングチームが立ち上がって、インターネットを使った選挙活動解禁に向けて、急に状況は変化していったのだ。
自民党内には、まだわずかながら反対意見が残っているようだ。しかし、時代は明らかに選挙に関して電話やFAXと同じかそれ以上の役割をネットに求めており、いくら与党とはいえ、無視を続けることはできない。自民党内にネットに詳しい議員が登場してきたのも、改正に向けて弾みがついた大きな要因といえる。「インターネットは与党に不利」などというのは、もはや常識ではない。
公選法の改正は、秋の臨時国会で行われる可能性が高い。そして、この改正によって一番大きく変わるのは、おそらく有権者側の意識であると考えられる。この点に関しては、「その3」で解説する。