通常のネット戦略では吉岡陣営優勢か
吉岡陣営には、昨年一緒に兵庫県知事選を闘った仲間が入ったので、何をやってくるかは想像がついた。予想どおり公式サイトもSNSも見事なもので、「さすがだなあ」と思って見ていた。特にプロモーションビデオ(PV)は、昨年の勝谷誠彦PVをさらにバージョンアップさせたようなものだった。
上手いねえ。予想どおり、タイムラプス効果やスローを多用して、市内の名所を折り込みながら候補者の良い表情を並べていく。
ただ、最後のシーンで入れている候補者の笑顔には違和感が残った。普段強面(こわもて)であまり良いイメージの無い候補者だから無理に入れたのだろうと思えてしまうものだったから。以前、現経産大臣の世耕さんが、著書で「広告と広報は違う。広報とは実物以上に見せることではなく、実物の良さを伝えることだ」と書いていたの思い出した。私は吉岡氏とは面識がないので、自分の周りでの評判しかわからないけど、ちょうど2年前に書いた
選挙での候補者PVは、新しい時代に入った
でいうと、テクニックは池田まきさんのビデオに近く、見せ方は和田よしあきさんのビデオに近い印象。つまり、新しい手法で古い見せ方になってしまった感じ。吉岡氏の優しさや懐の深さを見せるのであれば、違う手法の方が良かった。
私は、自分が作りたかったこともあり、昨年から登志郎さんに「たぶん、向こうは最後に凄いPVを作ってくるだろうから、こっちも対抗しますか?」と何度か確認した。登志郎さんの答えは「別にいらないんじゃない?」というものだった。ちゃんとしたPVは、非常に手間がかかるため、そこに力を入れるのであれば、もっと政策を伝えることに使おう、というのが理由だった。効果を疑問視していたというのもあるかもしれない。私は、内心不安があった。まともなビデオを作られたら、ネット広報としてはかなり不利になる。今回の吉岡氏のビデオはまさにそうだった。
ビデオは外に向けて発信するだけが目的ではない
そこで昨年考えたのは、「ビデオは自分で撮影してもらう」というものだった。そのためのリファレンスとして作ったのがこれ。
このビデオは、実は分割したものしか正式には公開していなかった。長かったし。一般に公開して見てもらうというよりは、「これは編集してあるけど、自分で撮るのは編集しなくてもいいので、これを目指してスマホで撮影してアップしてみてください」というものだった。気をつけたところは音声と明るさ。暗い表情だと見ている方も辛くなるし、音声が聞き取りにくいと見る気がしなくなる。
あとは「手作り感」。やはり自分の主張は自分が伝えないとダメなのだ。見る人の気持を捉えるのは、映像としての完成度ではなく、そこに候補者の気持ちが現れているかどうか。ちなみに、上の吉岡氏のPVと比べるとどうでしょう。当然、PVの方がカッコイイんだけど、身近なリーダーを選ぶとなると、手作り型のインタビュービデオの方が良く見えませんか?
この動画で一番見てもらいたいのは、7分のところから始まる「好きな音楽について」。BON JOVIについて語るのはなかなか面白いでしょう。ここで意識したのは、今村前市長との対比。まったく異なる人柄を見せる。
登志郎さんの飲み込みは早く、すぐに政策を自分で解説しながら何本もアップを始めた。私が「同じシチュエーションばかりだと飽きる」と言うと、公園に出て撮るなど工夫を重ねていった。
ビデオの再生数はそれほど無い。Facebookはそこそこあるが、YouTubeは「誰が見たの?」ひという程度だ。正式に公開していないから当然なんだけど。ひとつひとつ政策を語るビデオをすべて見る人はおそらくいない。大事なのは、「本人が作った政策を本人が語る」ということを伝えられるかどうかであり、もっと大事なのは候補者本人の頭の中が整理されるということだ。
何もビデオは外に向けてのものだけではない。自分が喋ったビデオを自分で確認すると、話し方の癖や言い回し、問題点がわかる。それを自分で意識することが大事だ。今、メジャーリーグの大谷翔平選手の「修正力」が話題になっているけれど、政治家も自分のビデオを見ながら姿勢や話し方、話す内容を修正していくことが求められる。
あとは、勝谷の知事選でもやりたかったライブ配信。本当は、選挙期間中に事務所に簡易スタジオを作って毎日同じ時間にライブ配信をやると、事務所内も盛り上がる。誰かやらないかなあ。
TwitterとLINE@は外に FacebookとLINEグループは内に
SNSは正直言って後悔が残った。Twitterは登志郎さんの古くからのフォロワーがいるので、候補者の中でも圧倒的な数だったけど、はたして西宮市民はどれだけいたのか。
更新は本人がやっていたので、投稿内容は面白かった。Facebookの投稿は事務局長とウチの事務所とで半々。LINE@の運営はウチで引き受けたけど、私のMacに管理ページを設定したのが3月下旬で、しかも無償バージョンを使っていたので、毎日1つずつ配信していって、選挙最終日に制限数に達してしまうというマヌケさだった。なので、大変申し訳ないのだが、LINE@は選挙後のお礼を出していない。
Facebookは、スタッフ向けを意識するようにした。LINE上には登志郎さんのアイデアで撮影部隊のグループを作り、そのチームが撮影してくれた写真を、東京で少し調整してからFacebookに流す。それが今度はLINEのボランティアグループに流れる、という仕組みに自然となっていった。
候補者本人のイメージを変える
内部向けの発信方法に変えてからは、インプレッション、インサイトやPVのような広報的な指標はあまり気にならなくなった。むしろ気にしてもしょうがない。だって簡単には上がらないんだもの。
そして、選挙戦の前から私が気になっていたことがひとつ。
それは、候補のイメージが紳士すぎるということ。インテリでスマート(外観じゃなくて内面ね)なのが気になった。選挙戦の終盤に入ってもこれだと、余裕があるように思えて有権者に伝わって行かないんじゃないか。また、周りのスタッフもゆるい雰囲気になってしまうのではないか、と。
私は登志郎さんに「最後に一本ビデオを撮ってください」と注文した。声がガラガラのときに、必死に「当選したい」という気持ちをカメラに向けることで、自分を鼓舞し、それが周りに伝わり、チームの志気を上げることを期待した。
それがこれ。
YouTubeで400回ほど、Facebookで1300回ほど再生されていてる。本当はもっと欲しかったけど、目的は本人とスタッフの鼓舞なので、映像としては良いものが撮れたと思った。
実際に効果がどうだったのかはわからない。しかし、現場から送られてくる映像や写真の中の候補の表情は明るく、強く、覚悟が滲んでいるように見えたので、多少は効果があったのではないかな。
もうひとつ。カメラに向かって指を一本突き立てている写真を送ってほしいと注文した。これは、「あなたの一票をください」とカッコ付けずに自分の気持をさらけ出すことと、「一番になって市長になる!」という覚悟を示す写真のつもりだった。
こんな感じ。本当はもっとカメラに向かって鬼気迫る顔をしてほしかったけど、まあ本人の気持ちが上がれば良いか、と。
これらも意図通りにハマったのかどうかはわからないし、必要なかったかもしれない。「票には関係なかった」と言われれば「そうかもね」としか返せないが、私は勝負を決めた108票の中の少しぐらいはあるのではないかと思っている。
長過ぎるプロフィールをわざと作る
人物像の出し方としては、プロフィールもある。選挙時にはホームページで最も見られるところだ。特に知名度の低い候補者は、ここを工夫しなければならない。
登志郎さんは知名度的には問題無さそうだったけれど、「もっと知りたい」というひとりかふたりのために、「なるべく長いプロフィールを書いてください」と注文をつけた。むしろ、有権者に「こんなにやっているんだ!」という気持ちを押し付けると言ったほうが近いかもしれない。これは、選挙の常識からはあえて外した。
ほとんど選挙期間に入ってきていて、目の回る忙しさの中で、「なんでこんなものを書かないといけないんだ」と思ったでしょうね。これは私の自己満足と言えそうだけど、通常は選挙用にコンパクトで必要最低限のコンテンツを揃えるのが常識のところで、あえて「こんな長文は読めないよ」というくらいのモノを置いておくことによって、「読みきれないほど中身が濃い」という印象を与えたかった。
今見ても、「こんなに長いの誰が読むんだ」と思うけど、アンチの人が「思わず読んじゃったら面白かった」とコメントを入れてきたのは嬉しかった。相手候補の支援者が、アラ探しで読んでこっちに気持ちが向いたら儲けもんだ。