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書き残しておきたいこと 水曜の朝午前8時

「翻訳には正解というものはないんですよ」〜More Than a Feeling【水曜の朝、午前8時】

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台風直撃

小豆島に来ております。

始まりは、3年前に奄美群島の喜界島に行ったこと。

その前に行っていた与論島で島の魅力に目覚め、喜界島でマイナーな島にもたくさんの魅力があることを感じ、『黒島を忘れない』出版で黒島との縁ができ、「こりゃ、近い将来、島に移住しよう」などと周囲に触れ回っていた。

すると、西日本出版社の内山社長から「瀬戸内には興味ありませんか?小豆島はオススメですよ」と言われ、「いや、興味も何も行ったことが無かったので、行ってみます」と答えて、やっと来ることができました。

今回は大きくふたつの目的があって、ひとつは「脳みそを休める」。もうひとつは「小豆島を知る」。

兵庫県知事選挙の無茶苦茶な戦いで心身が疲弊してしまい、8月に入って日常生活にも支障を来すようになった。身体のほうはなんとか戻ってきたものの、メンタルの部分で違和感を感じていた。そんなとき「脳が疲れているんだよ」と言われたので、「そうか!」と腑に落ち、「それなら以前から行きたかった小豆島で休めよう」と。

ところが、初日に高松に着いたところ、飛行機は奇跡的にほとんど揺れなかったのに、台風18号の影響で船は全便欠航となっていた。しかたないので香川県の観光パンフレットを見たら「桂浜まで車で2時間」に目が止まった。「おおこれなら往復できるじゃん」と思い、レンタカーを借りて出発した阿呆。

「高知県に着く頃は、台風はきっと日本海側に抜けるはず」となんの根拠も無い予想で向かったところ、高知に入ったあたりで雨風が強まり、桂浜に着いた頃は台風並みの(当たり前か)風と雨。RSK山陽放送の中継車が放送の準備をしている横で、ずぶ濡れになりながら坂本龍馬の像までなんとかたどり着いた。

嵐の中の坂本龍馬

帰途につく頃にちょうど台風が高知県に上陸した。なんと台風と一緒に香川まで向かい、高松に着いたときには、市内が冠水して車のタイヤがほとんど水に浸かるという初めての経験。怖かった。半分水没しながらなんとかレンタカー店に着き、ホテルにヘロヘロで戻ることができた。無茶なバカにもほどがある。

台風一過の小豆島へ

翌日は台風一過の日本晴れ。小豆島まで快適なフェリーの旅となり、土庄港に着きました。とりあえず、島内のメイン観光スポットは抑えておこうと、車を借りてオリーブ園やら「二十四の瞳映画村」やらをダーッとまわっていたら、やはり前日の疲れが残っていたのか、最後は目眩がしてきてダウンしてしまった。

台風一過のオリーブ園

そして小豆島二日目。一日寝ていようかとも思ったけれど、ホテルに置いてあった案内が目に止まった。

江同窟(ごうとうくつ)

江洞窟の案内

江洞窟の不思議な老人

もう夕方になっていたけど、急遽ホテルで車を借りて江洞窟へ。

特に受付のようなものはなく、入口横の事務室のような所で下を向いて作業している老人がひとり。

「すみません。入っても良いですか?」

「はい、どうぞ。帰るときに寄ってお茶を飲んでくださいね」

という会話を交わし、洞窟へ。

江洞窟

半地下のお堂は幻想的で、何かに包まれるような感覚を味わってから事務所に行き、老人にお礼を言うと、

「そこの冷蔵庫の中にお茶があるから飲んでください。Open the door」

いきなりの流暢な英語に少し戸惑いながら、老人と話を始める。

「私のことがテレビで放送されたので見てください」とご自身ででDVDを再生させはじめた。耳は遠くなっていないようだが、足は少し弱くなっているようだ。しかし若い。

内容はローカル局の終戦記念特集。その老人が紹介されていた。

その老人とは、僧侶の宮城英徹さん(98歳)。なんと長野県出身。

でも、長野のどこの出身かは「昔のことで忘れちゃった」って。

英語が得意だったので、終戦時にGHQの下部組織に誘われて通訳として入り、マッカーサーにも2度ほど会ったことがあるという。天皇陛下の通訳もやった。

驚いたのは、80代で「得度」して仏門に入ったということ。

小豆島霊場・江洞窟庵主 宮城英徹さん(朝日新聞)

最後に記念写真を撮らせてもらったところ、宮城さんが私のTシャツを見て、

「More Than a Feeling ・・・これは『考える前に仕事しろ』というような意味だね」

「あ、そうですか。これは僕が一番好きなアメリカのミュージシャンBOSTONの曲のタイトルなんです」

「この曲名の本当の意味はわからないけど、あなたが好きだというのであれば、このタイトルはあなたが理解したということなんですよ。翻訳に正解は無いんです。だって、もともと違うことばでしょ。完全に同じ意味に訳すことはできない。でも、あなたの心が理解できればそれで良いんです」

と、宮城さんは優しい表情で嬉しそうに語った。

実は、この『More Than a Feeling 』という曲の邦題は『宇宙の彼方へ』。これはBOSTONのデビューアルバムのジャケットが、ギター型宇宙船が爆発した地球から逃げ出すイラストだったのと、この曲のサウンドが宇宙的な広がりを持っていたことから付けられたので、全く曲とは意味が異なる。

しかし、もともと「More Then a Feeling」の訳詞では、「感覚以上のもの」となっていて、実際にそう訳されるんだろうけど、なんで宮城さんは咄嗟に

「考える前に仕事しろ」

と訳したんだろう。しかも、これは私にとって今一番心に刺さることばだ。

仕事のことで考え過ぎて、脳が疲れ、心も折れかかっていた自分には、これ以上無いというほどのアドバイス。しかも、それが一番好きな曲のタイトルであり、そのTシャツを着て行って、98歳の僧侶から教えられるという偶然。

身体の疲れはまだ残っているけど、心の疲れは取れそうな気がしてきた。

宮城英徹さん、僕はあなたのことをこれからもずっと忘れません。

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