世間はGW。
勝谷風に言うと「毎日が休み」の私は、「毎日が仕事中」でもあるので、わざわざ混む時期に観光地に出向くこともなく、世間のみなさまが休んでいる時期に出社して、いつもどおりに仕事するのだ。決してへそ曲がりではないし、「みんなが休んでいるときに出社すると、電車も街も空いていて良いなあ」などとありきたりのことを言いたいわけでもない。
豊洲「千客万来施設」をめぐる小池都知事と万葉倶楽部の確執
そんなGW中盤に差し掛かろうするタイミングでこんなニュースが出てきた。
【豊洲問題】小池百合子都知事、千客万来施設業者に陳謝 業者側「信頼関係ゼロ」と交渉進展なし(産経ニュース)
築地市場(東京都中央区)の移転先の豊洲市場(江東区)で観光拠点「千客万来施設」の着工の見通しが立たない問題で、小池百合子知事は1日、事業者の「万葉倶楽部」(神奈川県)を訪れ、同社幹部と面会。「食のテーマパーク」を一案としてあげた自身の築地再開発構想で千客万来の事業を阻害するような誤解を与えたとして小池氏は同社側に「申し訳ございません」と陳謝したという。
一方、同社の高橋弘会長は、報道陣に「知事から謝罪の言葉はない」とした上で「信頼関係はゼロ」と批判するなど、協議は進展しなかった。同社は築地再開発構想で事業条件が一方的に変更されたとして小池氏に謝罪を求めていた。
万葉倶楽部が企画している「千客万来施設」というのはこんな感じのもの。
豊洲市場千客万来施設事業の事業予定者決定について(万葉倶楽部HPより)
本施設は、築地特有の貴重な財産であるにぎわいを継承・発展させるとともに、市場本体 施設と連携し、豊洲ならではの活気やにぎわいを生み出すことで、豊洲市場の魅力を高めつ つ、地域のまちづくりや活性化に貢献します。豊洲市場を訪れる人々に対し、食の魅力を楽しみながら市場の活気やにぎわいを肌で感じ られる場をつくり、市場に対する興味、親しみや楽しみが感じられる機能を確保するととも に、卸売市場を理解していただくことなどにより、豊洲市場の魅力を高めていきます。また、新たに開発の進む豊洲地区ににぎわいを創出することで、地域のまちづくりや活性 化に貢献していきます。
つまり、豊洲の目玉となる「千客万来施設」を万葉倶楽部が受注し、開発を進めていたところ、小池知事となって豊洲移転が延期になり、施設の工事が遅れた挙句、築地再開発で似たような施設ができる話が持ち上がったため、万葉倶楽部は当初の見通しがズレてしまい、損害を被った。
万葉倶楽部の高橋弘会長は、自社に損害をもたらした小池都知事に対して謝罪を求めていたところ、突然小池都知事が万葉倶楽部を訪れて「誤解を与えた」と謝罪した。しかし、高橋会長が求めた「借地料の減免措置」と「当初のコストで工事を請け負うゼネコンの紹介」については言及しなかった、ということだ。
高橋弘会長との出会い
ちょっと昔話をします。
私は、2011年に『ザ選挙』を始めた直後、東日本大震災が起きて日本中が4月の統一地方選挙をやるような雰囲気ではなくなり、『ザ選挙』が予想していたほどの反響を得られなかったので、内心かなり焦っていた。
そんなある日、突然知らない電話番号からスマホに電話がかかってきた。
「私は高橋と言います。あなたを応援したいんだが、今近くにいるから会えないかな」
唐突で、知らない人からの電話。どこで電話番号を聞いたのかもわからなかったが(あとで、私の友人の新聞記者Sさんから聞いたことがわかった)、声の感じから年配の方らしく、たまたま事務所にいて時間があった私は、その電話の主に会ってみたいと思った。
1時間ほどして来たのは、万葉倶楽部の高橋弘会長だった。
「あなたがやろうとしている政治のデータベースは非常に意味がある。だからぜひ頑張ってもらいたいと言いたかったんだ」
私は自信を失いかけていたので、非常に勇気づけられた。そして、後日小田原の本社に行って何か一緒にできないか打ち合わせをしようということになった。ところが、小田原に行く前夜に、帰宅しようと半蔵門駅の階段を走って降りていたとき、ふくらはぎが「ブチっ」と音を立てて肉離れを起こしてしまった。いやあ、あの痛さといったら。
激痛の中で家まで帰り、なんとか一晩過ごして、早朝小田原へ向かい、びっこを引きながら万葉倶楽部本社に行った。そして、汗だくで激痛に耐えながらも平静を装い、1時間ほどの打ち合わせを終えた。その時点では歩くことも大変だったので、
「すみません。このあたりに整形外科みたいな病院はありますか」
と聞いたところ、「なんでそれを早く言わなかったんだ」と言われてしまった。本社のすぐ前に病院があったので連れて行ってもらい、そこからおよそ一ヶ月間、松葉杖生活になった。
まあ、どうでもいい話なんだけど、そんなこともあったので、高橋会長との出会いは非常に強烈な思い出となった。
スマホ2台持ちの音声検索使い
私が驚いたのは、会長はスマホを2台(AndroidとiPhone)とiPadを持っていて、キー入力はせず、音声検索を使っていたことだ。たとえば、iPadに向かって
「れ・ん・ほ・う」と声で入力して蓮舫さんの公式サイトを表示させるのを、普通にやっていた。
そのため、会長はFacebookの入力も音声で行っている。今回の小池都知事来訪に関する投稿はこうなる。
高橋会長のエピソード的なことを書き出すと長くなるので極力避けるが、少しだけ書き残しておきたい。会長はもともと「日本ジャンボー」という写真現像のチェーン店を全国に広げたが、デジタルカメラが発売され、世の中がデジタル写真に移行していると感じるや、日本ジャンボーを手放して、「万葉倶楽部」事業を始めて成功させた。
写真の現像業から温泉施設経営へ。「共通点は無さそうですね」という私に、会長は「あえて全く経験の無いものを事業化しているんだよ」と言っていた。おそらく企業セミナーなどでは、失敗する可能性が高いとされそうなことだが、それが彼の経営哲学だ。一度決めたら誰に邪魔されても怯むことはない。万葉倶楽部経営も順調に進んだわけではなく、途中東京電力とも大喧嘩したこともあるので、原発事故の前から東電を全く信用していなかった。
「政治家を選んだのは有権者なので、責任は有権者にある」という論理
そんな高橋会長なので、相手が東京都であろうと、自社に損失が出て、今後も成功する確率が低くなる可能性が見えてきたときに、まずはその原因を作った小池都知事に謝罪をさせて、その上で事態の打開を求めようとしたのだろう。
その点では、今回の小池都知事来訪は大きなチャンスになるはずだった。
しかし、会社側が問題点としていることに対してはノー回答であった上に、「問題を作った者としての責任は感じているのか」との会長からの問いに対して、「それは都民が私を選んだんだから、都民のせいだ」と言ったという。
これに関しては、小池都知事側から本当にそういったのか言及されていないため、どのようなニュアンスなのかわからないが、トップとして責任を取りにわざわざ小田原まで来たのに、最後は都民のせいにするというのは、あまりにも無責任ではないか。
とはいえ、小池知事が言ったことは、ある意味正しい。選挙とはそういうものだから。
しかし、まさか都民もこうなることを見越した上で小池さんを知事にしたわけではないから、「こうなったのは都民のせい」というのは、やはり無責任だと言えるだろう。それが許されてしまうと、政治家が不祥事を起こしても「自分を選んだのは市民だから、市民が悪い」としらばっくれてしまうことになる。
これに対して、都民はどんな手段に出るか。都民としては、次の選挙が審判の大きな機会となるのだが、「他にふさわしい人がいない」という理由で再任してしまうのだろうか。
あれ?これって国政もか。
小池さんは、相手の懐に飛び込んだところまでは良かったんだけどなあ。